HELLSINGの二次物(仮名)
正装に身を包んだ女が一人、椅子に座っている。女は金髪を肩まで伸ばし、どこかけだるそうな表情を眼鏡で隠している。
部屋はひどく暗く、そして大きい。窓という窓は全て重厚で豪華なカーテンで遮られ光が入る隙間もない、照明といえば部屋と同じように人が食事をする目的として使われるのは明らかに長過ぎるテーブルの上に置かれたシンプルな燭台の細い蝋燭がおぼろげな光を放っているだけだった。
女の前には、洗い晒しの真っ白なテーブルクロスが敷かれたテーブルの前に料理こそ盛られてはいないが皿と、よく磨かれた銀食器のフォークとナイフが置かれている。
女は、ナイフを左手に取ると、何の迷いもなく自分の右手の人差し指先にあてがい小さく横に滑らせた。
「……くっ」
そこで初めて女の端整な顔が少しばかり歪んだ。
女は、自分の指先に赤く出来物のように膨らんだ赤い溜まりを、皿の上に差し出す。
溜まりは指先で、その大きさを増し、伸びきっ溜まりは一粒一粒千切られたかのように丸く赤い玉をつくり皿に落ちていく。
皿が女の血で充分に満たされるに至って、女は自分の傷ついた指先をはじめて塞いだ。
「食事の時間だ、わが従僕よ」
女は、そう言うと自分の血で満たされた皿を床に下ろす。
そこには、何時の間にか男が立っていた。背の高い、赤い目をした男だ。
男は、黙って床に犬のように四つん這いに這いつくばると女の血で満たされた皿に舌を伸ばして、やはり犬が水を啜る様に女の血を舐め始めた。
びちゃ、べちゃ、ぐちゃ、のちゃ
気色の悪い音が、部屋を満たして行く。だが、女は顔色一つ変えずその光景を見ている。
「……戦争が始めるぞ、お嬢さん」
女の血で、口元を真っ赤に染めた男が実に愉快そうにそう呟く。
「相手は、あの戦争狂どもだ。止まるまい、止まれせまい。先代以上に血が流れ落ちるぞ。阿鼻と叫喚のみが、この地を支配するぞ。何とも心躍る光景だとは思わんかね」
女は男の愉悦交じりの声で、あの豚のように肥えた醜い小男を思い出す。その腐った口から吐き出された歪んだ思想に、女はあの場所で自分が一瞬といえど恐れを抱いてしまった事を屈辱と共に思い出す。
「……黙れ」
女は奥歯を強くかみ締め、従僕にそう命じる。
「あの時以上の愉悦が待っているぞ、たぎっているのだろ。今宵の血はいつも以上に美味い」
男が笑う、口を、顔を歪め、さもこれから起こるであろう事が嬉しいくて堪らないかのように。そして、皿に残った最後の一滴の血まで音を立てて飲み干した。
「黙れと言っている」
女が激昂する。だが、それはどこか芝居がかっていた。
「了解」
男は口元の血を拭う事もなく立ち上がり、女に向かって恭しく頭を下げた。
「……わがオーダーはただ一つにして不変「見敵必殺」。あの船は狂者どもにはすぎた墓場だが、このHELLSINGに、このイングランドに歯向かった事を地獄の底まで後悔させよ」
女も笑う。だが、どこかそれは男の笑みとは似ているようでいるようで違う。
女がまだ人間なのだ、という事を男は満足と共に確認する。それでなければ、張り合いというものがない。
「了解した、マイマスター。私は与えよう、あの愚か者達に死よりも恐怖よりも深く思い後悔を」
男は女の姿に満足した様にもう一度恭しく一礼した。そして、男は回りの闇と同化したように消える。
「……っつ」
女は、男が消えたのを確認してから葉巻を取りだそうとして自分の指先の鈍い痛みに気がついた。それはこの先に起こるだろう激しい嵐の予兆のように感じられた。
「ウォルター」
女は苛立たしげに、自分の忠実な執事の名前を呼ぶ。
女の名は、英国国教騎士団「HELLSING」局長サー・インテグラル・ファルブルゲ・ウィンゲート・ヘルシング。彼女はその名を持つ限り強くあらねばならない、誰よりも。
〜了〜
後書き
私の妄想も塊とでも言うべきでしょうか?
とにかく、『HELLSING』の場面を繋ぎ合わせた様なもの。とても、創作とは言えません。
一応、元は絵をくださった緑龍さんとmayukoさんへの御贈答ように書こうと思ったんですけど……。あまりに、ひどい物を贈るのは失礼にあたると思い止めました。何だか、手抜き作品みたいだし……。
とりあえず、ジャンクです。絵にジャンクがあるなら、SSにジャンクがあってもよかんべ、といういい加減なコンセプトを元に。そういえば、うちのHPが初出のSSもなかったのでこれでお茶を濁したわけです。
最後に、ファンの方怒らないでね。
〜了〜