九峪がこちらの世界に来て、季節も変わり早一年がたとうとしていた。
復興軍は順調に勢力を広め、ついこの間に懸案だった城を落としたばかりだった。そのせいか、復興軍の間にはわずかながら余裕すら生まれていた。
「・・・・・・ああ、今日は12月24日」
九峪は、不意にそんな事に気がついた。
この所、城を落とすのに必死で日付なんて気にしている余裕はなかった九峪は久しぶりにそんな事実に気がついて一人驚いていた。
「クリスマスか〜。まあ、この世界には関係ないよな〜」
そう言いつつも、九峪は煌びやかな喧騒に包まれているだろう現実世界を思い出して少しばかり感傷に浸ってた。
「・・・・・・そうだ。みんなも疲れているだろうから、ここは一つ。ぱ〜っとお祝いでもするか」
九峪は、そうして何となく思いついてしまったのだった。
こうして、九峪の号令の元、復興軍は訳もわからず祝いの宴の準備を始めた。
城を数日前落としたばかりという事もあって兵の間には高揚感が残っていた。それに、宴を厭う者など復興軍の中にいるわけもなく、訳がわからないものの皆一様に嬉しそうに準備をしていた。
「やっぱり、クリスマスはこうでなくちゃな〜」
事の当本人である九峪は、活況でわく城内を嬉しそうに眺めていた。
「九峪様」
「やあ、星華に亜衣」
星華と亜衣がやはり嬉しそうに、九峪に近づいてきた。
「この度は、兵を慰労するためにこのような宴を開かれるとは・・・・・・。皆を代表して御礼申し上げます、九峪様」
そういって、亜衣が深深と頭を下げる。
「い、いや。いいんだって、気にするなよ」
「いえ、九峪様は本当に兵の事、民の事を深く思う心。私も見習わねばと、思い至っている所です」
星華もまた、亜衣同様にやはり深深と頭を下げた。
「いや、本当に違うんだって。この日はさ、俺の元の世界でも祭日でさ、それをちょっと思い出して、懐かしくなっただけなんだよ」
「そうなのですか?」
「そうそう、だから気にしないでくれよ」
「あの〜、お聞きしても宜しいですか?」
星華がおずおずと尋ねてきた。
「その、九峪様の世界の祭日というのはどういう祭日なのですか?」
「ああ、うん。クリスマス・イブっていってさ。俺のいた国とは違う国の神様が生まれた日の前日なんだ」
「なっ!!!」
九峪の説明に、二人が驚愕した。
「で、それを皆でお祝いしようという訳なんだ、うん、どうした」
「どうした!! ではありません、九峪様」
お気楽な九峪に、亜衣がすごい形相で迫る。
「な、なんだよ、そんな怖い顔して」
「仮にも、神の御遣いたる九峪様が異国の神の生誕をお祝いするなんて」
今度は星華もまた、亜衣に負けず劣らずのすごい形相で九峪に詰め寄ってきた。
「いや、その、お祝いっていってもさ、騒ぐ為の口実というかなんというか」
「いけません!!! 何たる事、ああ、何たる事、八百万の神々の怒りを買うこととなったらいかがするおつもりですか」
「い、いや、その、二人とも、話を」
「問答無用!!!!!!!」
こうして、宴の準備は全て怒り心頭に達した星華と亜衣の手によって全て撤去され、城内は八百万の神々にたいして謝罪の祈祷が朝がくるまで、九峪同席のもと行なわれることとなったのだった。
・・・・・・ちゃんちゃん。
〜完〜
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